Sanpouji Storyteller

交錯する都会の中で織りなす5人の男女の物語

眼鏡とベストとギンガムチェック(19)-嵐の章Ⅲ

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第19章


城二と銀が成田に着いた時一報が飛び込んで来た。
なんと専務の中村によるクーデターである。
中村は数年前、大手商社佐藤忠商事からヘッドハンティングで我社に入社した人物である。
その中村のバックには投資ファンドが付いておりそのファンド自体、中村が以前勤めていた佐藤忠商事と繋がりがある。
ひいては中村自体佐藤忠商事から送りこまれた刺客であった。
中村はファンドを使いすでに、当社の株35%を取得していた。
ファンドの通称は薊ファンド、最近中華系や中東系企業を傘下に収め勢いにのってるファンドでファンドの中枢メンバーの薊は、元経済産業省役人で専務の中村とは入魂の中であった。

最近、株価が上がっていたのは気付いていたが、それは社長が進めてきた新プレジェクトが功を奏してきた物と思っていたが・・・・・・。
現在、社長の一族で発行済株数の40%を保有し佐藤忠プラス投資ファンドが35%を保有、残り25%を一般投資家が保有している。
この25%内の数%を恥ずかしながら城二は所有していた。
佐藤忠商事は、業を煮やしTOBを仕掛けてきたのである。

その時、銀がボソッと「ついに、本性を現したな」とつぶやいた。
おい銀、どう言う事だと尋ねると、銀はこう切り出した。
自分、実は創業家の一族で、会長が爺さんで、社長が親父の兄貴つまり伯父である。親父は銀が中学生の時分に過労が原因で亡くなり、それが要因となり、ある意味チャランポランで風来坊のような生活を続けていたと言う。

そんな折、爺さんから一通のエアメールを受け取った。
そこには、現在の会社の状態、置かれている立場が事細かく書かれていた。
手紙によると数ヶ月前に、大手商社佐藤忠から業務提携の話があり交渉が始まったと言う。
会長にとってこの提携は、吸収以外の何物にも思えなかったと言う
そう、体のいい乗っ取りと言って良いものらしい。
そして今考えると、中村専務が我が社「当月堂」に入った経緯にも不穏な影がちらついていた等々の話がつづられていた。
そして最後に、救世主になって欲しいと締めくくられていた。

そう言い終わると銀は、俺の手を握り「城二!自分に力を貸してくれ!!」
銀の真剣な眼と気迫のこもった言葉に黙ってうなずいた。
そうと決まれば先ずは作戦会議である・・・・

と言う事で先ずは、東京にある我が家に二人は向かった。
元々城二は当月堂東京支店勤務であったが、大阪本社である程度の事務レベルを持ち営業レベルが一定以上備わっている人材が欲しいとの要望があり城二に白羽の矢が立ったと言うわけである。

 

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城二は、東京世田谷に2DKのマンションを所有しているが、今現在空き家になっており月一回程度東京に帰り、風入れ等を行う生活が4年半続いていた。
「城二まずは腹ごしらえをしながら作戦考えようぜ!!」
と言い終わるか終わらないかのタイミングで「そんじゃ出発だ」と城二が立ち上がり部屋を出て駐車場へ向かった

そこには我が愛車チリレッドのMINIが静かに鎮座していた。
二人は、車に乗り込み明治通りを走行「なあ、城二何処行くんだ」と銀が尋ねると、「こないださーこっちの友達から店紹介されて、其処行こうと思うんだ」そう答えると銀は、「じゃあとか、さーとか東京人ぽい言葉が出て来たな、でもジャンは使うなよ関西人は嫌うから」そう言いながら大声を出して笑った。
二人が向かったのは明治通り沿いにある「メール・ドゥ・ノルド」と言う蔦の絡まった外観のしゃれたフランス料理店である。
店に入ると東洋人らしい人に案内され席についた。
「結構、流行ってんな」そう言いながら二人は席に着くと、早速作戦会議を開いた。
まず何をすべきか?
その為には、何をすべきかである。
何をすべきか当然、中村ひいては佐藤忠のTOBを失敗させること。
その為には、25%の一般投資家に佐藤忠より魅力的な提案をしなければならない。
彼方の手札は、くしくも社長が進めていた新プロジェクトであった。
と言うのも、プロジェクトメンバーほぼ全員専務の中村が選定をしたとの事、当然子飼いの社員が当てられ、自分が持っている財産(人間関係)をフルに活用させ新たな商品を販売させていった。
その中で城二がメンバーに選ばれたのは、銀が社長に進言し実現させたものであった。
銀には城二が必ず銀を誘ってくると言う、確信めいた何かを感じたらしいのである。
そのある意味直感を信じての抜擢であったと後に聞かされた時は、かなり落ち込んだものである。
さて此方の手札は、銀のつてで契約に至った、素材が有るのみであるのだが、この素材は一級品である。
これをどの様に扱うかだが、ただ素材の販売では意味がない。
そこで、この素材を何に化けさせるか?
どう戦略を立て、売上を上げて行くかだが城二にはある考えがあったのである。
この羽毛の様に軽く、チタンの様に頑丈な素材で眼鏡のフレームを作ろうと考えていたのである。
と言うのも日本人は鼻が低い為、直ぐ眼鏡が落ちてしまい眼鏡を上げる動作をよく見かけるからである。
また、現在の多くの眼鏡は、鼻と耳で支えているが、長時間使用すると耳の付け根が痛くなり非常に不愉快であることが伺える。
この技術を応用すれば、スポーツグラスにも応用出来ると確信していた。
方向性は決まった、後はどう形にするかである。

 

そんな話をしていると、隣の席で会話を弾ませていた2人の女子が声をかけて来た。
「あの~話に割って入って申し訳ないのですが、御二人の話に大変興味がありまして~」と切り出してきた。
産業スパイか?・・・・
それとも中村の手先か?
そんな事が頭を過ぎった瞬間「実は、私たち帝都大の研究員で、先ほど御二人が話していたSPECTACLE(眼鏡)の研究をしてまして、デザインは基より人間工学に基づいた機能性を研究しています」と言うではないか。
正に渡りに船である、ランチもそこそこに二人を伴い我が愛車MINIに乗り込んで、帝都大へ向かった。

 

 

 

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途中首都高一号線汐留の合流で青のプジョー白のコルベットC3とすれ違い自分のチリレッドのF56と合わせて、まるでフランス国旗だな~などと思っていた。
大学に着くと早速彼女達の案内で、教授の新戸比沙子を紹介されて打合せに入った。

新戸が「研究生より大まかな話は聞きましたが」と切出したかと思うと銀が「早速ですが、この特殊な金属の特性を説明いたします」と何の疑いも無く話を進めだしたので慌てて話しに割込み静止させた。


「おい銀、そんなに彼女達を信用して良いのか?」とふると「問題は、無いよ」と帰ってきた。「如何してそういい切れる」また切返すと「おそらく此れから話す内容の10%も彼女達は理解出来ないよ」と笑いながら言い放った。
確かに銀が話した内容は、専門過ぎてその分野に精通した人で無いと、いや精通した人でも理解するには困難を極めるとおもった。
大事なのは、新戸教授がどんなデザインを考案し、加工できる工場を見つけられるかである。

今度は、教授がデザインをキャドで披露しようとした瞬間「ちょっと待って」と研究員が静止した。
「本当に彼らで良いのですか?」その問いに教授が「彼らは、包み隠さず話をしてくれているし何よりも、その特殊金属を売り出したいと考えている、そして眼鏡にちゅうもくした」「此方は、この画期的なデザインの眼鏡を発表したいと考えている」こう話し出し「後は、女の感よ」と研究員をいなした。

御互いの利害が一致すれば後は走るだけである。
新戸教授の考案したデザインを、実現してくれる加工場探しであるが、かなり難航すると考えていたのだが、以外にも簡単に解決した。
と言うのも、アメリカに居るタクミからの一本の電話で、状況が好転したからである。
タクミいわく、例の特殊金属Xの加工試作機が完成し実験結果は、大成功との太鼓判をおされた。
ついては、早速商品開発のプロジェクトを立ち上げたいので、至急会いたいとの内容であった。

城二と銀は顔を見合わせ大きくうなずいた。

 


Toto - Child's Anthem Live @Yokohama 99

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