Sanpouji Storyteller

交錯する都会の中で織りなす5人の男女の物語

眼鏡とベストとギンガムチェック(5)ー嵐の章Ⅰ

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第5章

  暖かな日差しが頬を伝い、寝ぼけ眼でタバコを咥えベランダに出ると白い砂浜

と一面のマリンブルーの世界。モーニングコーヒーモカマタリを淹れると優雅

な香りが辺り一面に広がり、細胞ひとつひとつに沁みわたっていくようである。

何処からともなく聞える鳥のさえずり

 

「ピピピピ・ピピピピ」

 

ん・ん・ん・・・・・・!

 

 目が覚めるとそこにはいつもの現実、大阪市内のワンルームマンションの一室

であった。

 俺の名前は、「堂島 城二」東京生まれ東京育ちの東京っ子である。ココ大阪

へは、会社命令の転勤で既に四年がたとうとしているのだが、どうも馴染めない

で苦労している。

 

 特に苦労しているのが食である。

 

 転勤してきたばかりの頃、こんな事があった。

 

 出勤前に朝食を食おうと駅の立ち食いそば屋で「タヌキそば一杯」と注文する

とバイトらしきあんちゃんが、怪訝そうな顔で応対してくれた。

 

「はい・おまっとさん」

 

出てきたのはなんとキツネそば。

 

 俺は、あのかけそばに天かすというボリューム感の有るトッピング、横に青菜

の御浸しがチョコンと乗っかて、更にワカメが乗っかていたら完璧の、あのタヌ

キそばが食いたかったのだ。

 

「おいおい俺が頼んだのはタヌキそば、此れキツネそばじゃんか」

 

と、クレームを付けるとあんちゃんは、

 

「何言うてんねん、立派なお揚げがの乗ったタヌキやないか」

 

と、一蹴された。

 

「フ・ザ・ケ・ル・ナ」

 

と、言い終わる間もなくカウンター越しに胸ぐらをつかんでいた。

 

「ちょっと待ってんか」

 

隣にいた男が仲裁に割って入って来た。

「あんさん東京もんやろ? 大阪でタヌキ言うんは、東京で言うところのキツネ

そばの事なんやで。 天かすなんてものは、ただ0円や

そこの角見てみ、てんこ盛りで置いてあるやろ」

 

 目線をカウンターの角に移すと、そこには天かすがてんこ盛りに入った器が鎮

座していた。

 

「あんさん、郷に入っては郷に従えでっせここは素直に謝って蕎麦食おうや」

 

 そう言うと男はニッコリ笑った。それが悪友、才波 銀との出会いであった。

 

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